コラム
業務改善が進まない理由は「時間がない」が51.0%|広島県庁の職員2,281人の調査(広島AIラボ年次報告書)と、業務フロー図のたたき台をAIに作らせる試み【2026年】
広島県庁が全職員に行ったアンケート(2,281名が回答)では、担当業務に見直しの余地が「大きい」「ややある」と答えた職員が68.6%いました。ところが、改善に取り組んで「成果を実感している」職員は18.1%にとどまり、「取組の必要性は感じているが、取り組めていない」が33.3%で最多でした。取り組めていない理由の1位は「時間がなく、後回しになってしまう」で51.0%です。
この結果は、広島県が県庁内に置いた研究組織「広島AIラボ」の「2025年度 広島AIラボ年次報告書」に載っています。報告書では、要綱やマニュアルからAI(大規模言語モデル)に業務フロー図のたたき台を作らせる仕組みも試しており、職員から「たたき台があることは非常に助かる」という評価が出ています。行政の調査ですが、「必要とわかっていても、時間がなくて手が回らない」という構造は、10人未満の会社の経営者と同じです。数字の中身と、AIをどこに当てたかを順に整理します。
業務の棚卸しや手順書のたたき台をAIに作らせ、人が確かめて直す進め方を記事の最後にまとめています →
広島県庁の職員は、業務改善をどこまでできているか
報告書の第2章に、全職員を対象にしたアンケート(2,281名回答)と、各部局から無作為に選んだ30名へのインタビューの結果が載っています。主な数字は次のとおりです。
| 質問 | 結果 |
|---|---|
| 担当業務の見直しの余地 | 「大きいと思う」「ややあると思う」の合計 68.6% |
| 担当業務に対する改善の取組状況 | 「成果を実感している」18.1%/「取組の必要性は感じているが、取り組めていない」33.3%(最多) |
| 業務改革(BPR)の手法の経験 | 「実践したことがある」10.4%/「学んだことがない」44.0% |
| 改善のイメージが湧く範囲 | 「他課との調整・協力が必要になる範囲」以上をイメージできる 23.1%/「所属組織内」か「自分の担当範囲」まで 76.9% |
報告書はこの状態を、必要性はわかっていて一定の着手はあるものの、成果を実感するところまで「やりきれていない」と表現しています。なお、報告書では業務のやり方の前提を問い直して再設計する取組を「BPR(業務改革)」と呼んでいますが、この記事では「業務改善」で通します。
業務改善に取り組めない理由は何か
改善に「行動していない」「改善の予定はない」と答えた職員に、その理由を複数選択で尋ねた結果です。回答の多かった上位3つは次のとおりでした。
| 取り組めていない理由 | 割合(人数) |
|---|---|
| 時間がなく、後回しになってしまうため | 51.0%(358人) |
| 法律等の縛りがあるため | 24.6%(173人) |
| やりたくても方法や相談相手がわからないため | 22.5%(158人) |
割合の母数は全回答者ではなく、取り組めていないと答えた職員です。複数選択のため、合計は100%になりません。
インタビュー(30名)でも同じ傾向で、「目の前の業務で精一杯、改善に充てる時間がない」といった余力の不足に触れた職員が18名、「業務フロー図を作る労力が大きい」「改善の進め方がわからない」「伴走支援が欲しい」といった専門的なノウハウや支援の不足が16名、他課の業務内容がわからないという情報共有の不足が15名、改善する動機や推進体制の不足が15名でした(複数の要因に触れた職員がいるため、合計は30名を超えます)。
報告書は、業務改善が進まないと業務量が減らず、さらに時間がなくなるという悪循環を指摘しています。この輪を断つには、改善そのものを短時間で成果が出る形にする支援が要る、というのが報告書の整理です。
広島AIラボは、AIで何を試したか
報告書の筆者が着目したのは、改善の前提になる「業務の全体像を図にする」作業です。業務フロー図を作るには専門の知識と労力が要り、これが「時間がない」「ノウハウがない」の両方に効いている、と見ています。そこで、要綱やマニュアル、ヒアリングのメモを入力すると、AIが業務の内容を分解して構造化し、図の描画は別のプログラムが行い、最後の修正は職員が画面上で行う、という仕組みを作りました。
そこに行き着くまでには試行錯誤があります。最初は国際的な標準記法の図をAIに直接出力させましたが、記述ルールが厳密なためエラーが頻発しました。次にコーディング支援AIに図を自動生成させたところ、1つの図に30分近くかかることがあり、修正のたびにAIへ指示が要るため採用を見送っています。「AIに図をすべて任せるより、AIは業務内容の分解だけを担い、作画は別工程、最終調整は人」という分け方に落ち着いた、と報告書は書いています。
| 検証の例 | 内容 |
|---|---|
| 入力したデータ | 助成金の助成要綱(PDF・6ページ) |
| 出力されたレーン | 5(申請者、県の事業担当課、県の決裁者、市町の事業担当課、県の会計担当課) |
| 出力されたノード | 65(手順56、目的9) |
日常的に業務改善やDXに関わる職員に使ってもらったところ、「業務フロー図を作成した経験がない人にとって、たたき台があることは非常に助かる」「登場人物の抽出が正確でありがたい」という評価でした。一方で、AIとの対話で改善の気づきを引き出す面は、「業務を整理するための壁打ち相手としては機能する」という評価と、「AIからの問いかけが定型的で、新たな視点が得にくい」という意見が並んでいます。報告書は、AIが効くのは改善の入口である「現状の可視化」のコストを下げるところで、対話だけで改善の気づきを得るのは難しかった、と結論づけています。
10人未満の会社の経営者にとって、何が同じで何が違うか
この調査は広島県庁という行政の中の話で、民間企業の数字ではありません。県庁には「法律等の縛り」(24.6%)や「他課との調整」のように、小さな会社にはそのまま当てはまらない要因もあります。
それでも、「必要だとわかっているのに、時間がなくて後回しになる」という構造は同じです。むしろ小さな会社では、その業務が経営者本人に張りついているぶん、後回しの影響が大きくなります。インタビューで挙がった「業務フロー図を作る労力が大きい」「改善の進め方がわからない」も、そのまま当てはまります。
報告書から持ち帰れる使い方は、「業務の棚卸しや手順書のたたき台をAIに作らせ、人は確かめて直す」という分担です。ゼロから書く負荷をAIが引き受け、経営者は「この手順は本当に必要か」「抜けはないか」を見る側に回ります。AIとの対話だけで改善案を出させるのではなく、まず現状を図や一覧にするところに使う、という報告書の結論は、小さな会社でもそのまま使えます。
棚卸しの表や業務フロー図を実際に作る手順は、本社(仙台)のブログにまとめています。業務の棚卸しのやり方(業務一覧表に落とす4ステップ)と業務フロー図の作り方(手書きで描ける4つの記号)に、AIに下書きさせるときの指示の例も載せています。
なお、広島AIラボは県庁内の研究組織で、会社からの相談を受ける窓口ではありません。広島でAIの導入を相談できる公的な窓口は、広島でAI導入の相談はどこへにまとめています。
この記事を読むときの注意
- 対象=広島県庁の職員を対象にした調査です。民間企業や県内の中小企業の数字ではありません
- 母数=「取り組めていない理由」の割合は、改善に行動していない、または予定がないと答えた職員が母数で、複数選択です
- 報告書の性格=年次報告書は職員ごとの章立てで、この記事で扱ったのは「AIを活用したBPRに関する取組」の章です。個人名は出していません
- 評価の対象=AIの仕組みの評価は、日常的に業務改善やDXに関わる職員へのヒアリングにもとづくもので、全職員の評価ではありません
- 時点=2025年度の報告書で、県の広島AIラボのページに掲載されているものです
出典
※本記事は2026年9月30日時点の公表情報にもとづいています。
この記事に出てきた仕事、AIに任せると
「時間がなくて後回し」になっている仕事は、まず現状を一覧や手順書にするところからAIに任せると動き出します。打ち合わせや口頭の説明を記録に残させる、仕事の手順を手順書にして誰が見てもたどれるようにする、散らばった業務の一覧を整える、の順が進めやすい形です。
ご相談について
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